痛すぎる日経新聞のゲーム市場分析

2007/1/7付日本経済新聞「けいざい解読」に『「Jクール」生む神話の森』という記事が掲載されました。DSの「おいでよ動物の森」とPS2の「みんな大好き塊魂」を例に挙げ、こうしたゲームの特徴は「ゲームオーバー」も「対決」ないことであり、それはすべてのものに霊魂が宿るという、アニミズムに根ざした日本の神話的思考から生まれるものだというのです。そして更に、米国製ゲームは「勝負」と「戦い」を重視する世界観が根底にあり、それはひいては一神教に根ざすのだといいます。
ここまでで既につっこみどころ満載なのですが、その上さらに、「対決」を重視しない和製ゲームが米国ゲーム市場に受け入れられつつある事実と、「9・11」事件に始まったイラク戦争に対する倦怠感との関連性を匂わせます。こんな大雑把なゲーム市場の分析、初めて読みましたよ。。。


とりあえず一部を以下に抜粋します。

「動物の森」とは任天堂が携帯ゲーム機「DS」用に開発したヒット作である。発売は2005年11月で、直ちに同年の国内売上高トップを記録。06年も販売は衰えず、日本で399万本、北米でも98万本が売れている。
特徴は「ゲームオーバー」がないこと。動物たちが村で魚釣りをしたり、買い物をしたり、友達とは話したりして気ままに暮らすだけ。野菜の"カブ"を上手に育てて売れば、相場次第でお金も稼げる。現実の生活と並行し、想像上の「神話世界」での暮らしが終わりなく続く。
制作を率いた任天堂手塚卓志氏(46)はこう語る。「プレーの技術や刺激を追求するだけが遊びの本質ではないはずだ」。女性が中心の約20人の開発陣は、村の住人の動物たちの洋服や道具のデザインに時がたつのを忘れた。「細部の一つひとつに命を吹き込むようで実に楽しかった」
米ゲーム業界が「新市場の種」として着目する日本の想像の土壌が、ここにある。米国製ゲームといえばスポーツ、レース、アクション、射撃が主流。開発者の発想の根底に「勝負」や「戦い」を重視する世界観が脈々と流れているからだ。そもそも一神教に根ざす米欧文明で「ゲーム」の意味とは「白黒をはっきりさせること」でもある。
その米国市場の底流で変化が起きている。「動物の森」だけではない。ひたすら塊を転がして車やビル、飛行機などを巻き込み、次第に大きくして星を作るゲームソフト「みんな大好き塊魂」も大人気となった。
米国の若者が"対決"と無縁の日本製ゲームを歓迎し始めたという現実。その心象風景には、2001年の「9・11」事件に始まりイラク戦争に至るまでの切なく、乾いた時間が重なって見える気がする。
すべてのものに霊魂が宿るとするアニミズムが現代も息づく日本文化は、神話的思考と切っても切れない関係がある。ゲーム産業ではかつてない規模で神話的思考が生きている−−。思想家の中沢新一氏は日本経済の中に潜む力強いソフトパワーの存在を指摘する。


こうした主張を展開する前に、以下の点を検討してもらいたいと思います。

和製ゲームの主流も「勝負」と「戦い」を重視するものが占めてきたという現実

電撃オンラインで2000年度から2004年度までの5ヵ年間のランキングを公表しています。見ればすぐわかりますが、ほとんど「勝負」と「戦い」のゲームですよね。
アニミズムが根ざす日本の文化、という点から和製ゲームの特性を説明するのであれば、これらの「一神教」ゲームが過去の売上げの大半を占めてきた現実を説明しなければなりません。(そもそも、なぜ一神教と「勝負」「戦い」が結びつくのでしょうか?)

「動物の森」の要素が米国産ゲームに存在しなかったか

ゲームオーバがないことや、お金を稼ぐことができる、友達と話す、魚釣りをするといった自由度の高さは「動物の森」がオリジナルではないでしょう。むしろこれらの特徴は海外で生まれたオンラインゲームの影響を受けていると思います。例えば最初期のMMORPG(多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)の一つである「ウルティマオンライン」は、モンスターとの戦いなどの冒険のほかに、貨幣の交換やユーザ同士のコミュニケーションを実現するシステムを10年近く前からユーザに提供しています。また、フィールドのオブジェクトを加工したり、別のユーザに売ったりすることができるなど、極めて高い自由度の高さでも有名でした。

ゲーム市場の担い手の変化

ご存知のとおり、ゲーム市場は縮小傾向にあります。かつてのファミコン世代は既に30歳代になり、ゲーム人口自体が少なくなってきました。この状況を打開するためには、今までゲームをしなかった層を市場に取り込む必要があります。例えば女性や中高年です。こうした層はアクション性の高いゲームや、暴力的なゲームはあまり受けいれられません。これらの層にも受けるような新機軸のゲームが必要になります。ここに目をつけて大成功したのがDSですね。「動物の森」や「脳トレ」はまさに女性と中高年のゲームユーザの拡大に貢献しました。(先に引用しましたが、「動物の森」の開発陣に女性が多かったというのも、女性にも受け入れられるゲームを目指したからでしょう)アニミズム云々を持ち出すより前に、この市場の担い手の変化に注目すべきです。


日本文化と欧米文化、さらに一神教アニミズムの対比まで持ち出してゲーム業界を語ることに何の意味があるのでしょうか。更に「9・11」とイラク戦争アメリカ人は戦争が嫌になったからゲームでの「戦い」も嫌になったと言いたいのでしょうか。ここまでくるとナンセンスとしか言いようがありません。